
コスタ・アマナ前編1/2 ジャウハラ前編1/2 幕間 後編1/2
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パチパチパチ…
相変わらず美しい歌声ですわね、クレタさん。
えへへ…ありがとうございます、ローレライ様。
………でも、一番聴いて欲しいお方に、この歌は届かない。
わたしはもう…お役に立てないのかもしれません…。
…………。
貴女の歌は、変わらずオーサルアトゥイの民の心の癒しとなっていますのよ。
大丈夫。アンネローゼ様だって、また耳を傾けて下さいますわ…。
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コンコン!
入れ。
よろしいでしょうか、ディアマント様。
コスタ・アマナより書状が届きました。
二通あるのですが、建国祭への来賓招待状と…おや、こちらは…?
…ひとまずご覧ください。
………………ふむ、これは…。
………直ちに、女王にお渡しせねばなるまい。
既に女王にはお伝えしたが、コスタ・アマナのフィリップ王子より「安全保障協定」締結の打診がなされた。
近々催されるコスタ・アマナ建国祭の開催期間中、
王子の身の安全の保障を我が騎士団に依頼したいそうです。
任務の内容は…建国祭の期間中、王子の護衛を行うこと。
問題なく建国祭が終われば、報酬も出すと仰っています。
他国の護衛、ですか。
…近頃は、我が国でも魔物の出没例が相次いでおります。
夢の樹事件の調査も御座います、とてもそのような余裕は…。
…………ちょっと、なァによそれェ………。
…あんの男ッ!
「王子の身の安全」ですってェ…?
そこは「住民の安全」じゃ無いのォ!?どこまで我が身が可愛いのかしらァ!?
!? い、如何なさいました、ペルラ様…?
ペルラ! …落ち着きなさい。
…ハッ!
つ、つい昂っちゃったわン…。ごめんなさいねェ。
アタシ、あの国の王子…大ッッッ嫌いなのよォン…。
仮にも大臣職を務める者が、国として対応すべき案件に私怨を挟むとは何事か。
口を慎み給え。……会議を続行する。
………。
コスタ・アマナは小国ながら、近年急速な発展を遂げています。
その経済の手腕は見事なもので、リゾート地としての人気も非常に高いです。
ですが…利益の為には強引な手段を取る国としても悪名高い。
外交において、慎重な姿勢を崩せない相手です。
ええ。ここで協定を無下に断っては、今後如何なる影響を及ぼす事か…。
…それに、この件には【夢の樹】が関わっているかもしれないのです。
…夢の樹が…?
はい。建国祭に於いて「魔女」が王子の命を脅かす危険性が高いと、書状に記されていました。
そのため、自警団に加え外部への護衛協力を要請したようです。
コスタ・アマナが存在する島の前領主は、兼ねてより奪還を策謀しているとの事…。
ペルラ…。貴方は「魔女」…前領主の御方と、親交が深いと聞いています。
何か変わった様子は伺えましたか…?
………………。
10年程前…領主だった頃は、少し好戦的だけど心優しい娘だったわン。
あの王子に島を譲り渡してから…どんどん沈んでいってしまった…。
海の底に身を移してからも、会いに行けば彼女は笑顔で迎え入れてくれたワ。
いつか絶対に島を取り戻して見せるって、心は屈していなかった。
でもねェ…近頃はアタシの話をまともに聞いてくれないのよォ。
まるで心まで、海の底に沈みきってしまったよう…。
「何か」があの子に作用しているのは、間違いないでしょうねェン…。
…今、大きな異変が起こるとなれば、【夢の樹】が最も疑わしい。
調査の必要性は少なくとも有るだろう。
私は協定を受諾すべきと考える。女王は如何か。
お受けいたしましょう。
コスタ・アマナの王子がどのような思惑で協定を結ぼうとしているのか…。想像は難しくありません。
ですが、迫る危機を見過ごす事も、彼女の心を見放す事も、出来ません。
そうでしょう…アスセーナ。
はい。リュウシンのように、コスタ・アマナで災難が起こるかも知れない…。
ならば、我々が打ち砕く剣となってみせましょう。
リュウシンの事件以来…レム・ワールドに大きな異変は起こっていません。
今のわたくしたちは不気味なほどに平穏な日々を過ごしています。
…ですがゆっくりと、確実に、この世界は蝕まれ始めている。
王子もまた不安に苛まれ、恐れているのでしょう…きっと。
手を取り、救ってさしあげましょう。
国も、王子も、「魔女」と呼ばれた彼女も…。
おお…実に豪勢な宿舎だ。
流石コスタ・アマナの一等地だな…。
コレが特別騎士団全員分あるなんて信じらんないっすね〜…!
ハア………。青い空に青い海、白い砂浜に賑やかな町並み…。
最高のリゾート日和を、オレ達満喫できないんすねぇ…。
ウフフ…。コスタ・アマナはステキな島ですもんね!
でも、気をつけてください。
…一見、いつもの平和なリゾートに見えますが…王子の住む城から、強いチカラを感じます。
【夢の煙】に近いような…そんな感覚のモノ…。
エメ殿。この度は調査への協力と同行、心より感謝する。
更に詳しく調べられるだろうか?あちらの国に気付かれないように…。
ハイ。何か判ったらすぐにお教えしますね。では…行って来ますっ!
気をつけるっすよー!
…エメちゃんがこちらに協力的なのは、いい事っすけど。
騎士団の動きを察して、アルナディアの連中も動くでしょうねー…。
奴らは奴らで調査を進めていると聞く。必ず動きを見せるに違いないな。
…今は停戦状態にあるが、元は我々パンセレネと相容れぬ間柄。
奴らがもしコスタ・アマナに現れたとすれば、島に混乱を招くだろう…。
コスタ・アマナ建国祭の開催期間中、我々は魔女の襲撃に備える。
アルナディアの奇襲も想定に入れなければいけない。メインイベントは最終日といえ、心して掛からねばな。
ひええー…キッツ。リゾートがどうとかそんな場合じゃないっすね…。
詳しい任務内容は、これから私がフィリップ王子より賜る事となっている。
本日は現地待機、明日より任務開始だ。そのような予定と有志の団員に通達してくれ。
了解っす!
…ジャウハラ部隊の調子は如何だろうか。ロジエ殿が居れば無事とは思うが…。
ルシエル、後でリコリスとも連絡を取るように。任せたぞ。
………そうか。焔月、報告ご苦労。オレ達もたった今到着した。
お前は引き続き動向を探ってくれ。通信を切るぞ。
…失礼した。魔女アンネローゼ。構わぬ。
では、何用で貴様らが我が城を訪れたのか……話してもらおうか。「海底の魔女」がコスタ・アマナに攻め込む準備をしていると、風の噂を耳にしたんだ。
真偽は判らないが、もし事実なら手を貸そうと思ってな。……何故?私と貴様らとは何の所縁も持たぬ。
見ず知らずの輩の手を安易に借りるほど、私は無能ではないぞ。確かに…我がアルナディアとオーサルアトゥイに、大きな関わりは無い。訝しむのも無理はない。
リュウシンの事件を覚えているか?
少し前の話になるが、レム・ワールドの夜空から星々が消えたんだ。
…海底に籠りきりじゃ、星空も見ていないか。星空が消えた原因は、消失した【夢の樹】にある。
オレ達アルナディアと王国パンセレネは、その【夢の樹】を探す競争に乗った。
リュウシンでは…僅かに遅れを取ったが、次はそうはいかない。
奴らが久しぶりに大きく動いたんだ。こちらも迎え撃つ準備が必要になる。…率直に言おう。パンセレネはオレ達の敵だ。
そいつらが、お前の仇の味方についたんだ。金で雇われてな。
ならばこちらも手を組んだ方が、何かと都合が良いだろう?私があの小僧をどうしたいか、貴様は知っているという訳だな。
……金か。あの小僧のやりそうな事だ。パンセレネは、レム・ワールドの多くを支配している。
時間も空間も通貨も、ありとあらゆるものを…。オレ達は奴らの掲げるものに決して縛られない。夢はもっと自由であるべきだ。
強大な力で抑えつけられようとも心奪われず、機会を伺いながら力を蓄えた。
お前と同じさ、アンネローゼ…。………………
…確かに、貴様らとは境遇が似ているのかもしれぬな。…私は、島を奪ったあの小僧を許せぬ。
眠りに誘われ数十年、愛し育てたこの島……ある男と競い合い、奪い合い、慈しんだ私の島だ。
どうあっても棄てられるものではない。
故に、反撃の機会をこうして海底より待ち望んでいるのだ。……だが、それだけで貴様らを信用するには足りぬ。
あの小僧への復讐は遂げる。然しその為に貴様らの手を借りる事はない。大勢の客人は久しぶりだ、それ相応に持て成そう。
城には滞在してくれて構わぬ。気を済ませ、直ちに帰るが良い。
…私はこれにて失礼する。-
バタン…
…一筋縄では行かないか…。
いいさ、どんな手を使ってでも味方につけてやる。アンネローゼ様。
何用だ、ローレライ。
失礼ながら…只今のお話、伺っておりましたの。
嗚呼、この時期にこのような機会に恵まれるなんて…実に素晴らしい巡り合わせ!
あの者たちの手を借りるべきと、占いの結果に出ておりますの。
わたくしとしてもこれを逃すことは大変に惜しく思いますわ…。…そうか。
お前の助言に、オーサルアトゥイは常々救われて来た…。感謝している。
だが今回は別だ、ローレライ。信用に足る者でなければ……また裏切りを受け、敗北する光景が目に浮かぶのだ。
それが私は恐ろしい……裏切りによって民を傷つけてしまうことは……。アンネローゼ様…。
…あなた様のお考えは痛いほど分かりますわ…。
ですが、あの者の目を見まして?わたくしはあの目からまっすぐな意志を感じましたわ。あの強い眼差し。わたくしは同じ目を知っておりますわ、アンネローゼ様。
あなた様は深海の民を導く者。侵略者に虐げられた無念を晴らさなければ。………………………………。
お前を信用しても良いのだな、ローレライ。勿論ですわ!
長年お仕えしておりましたが…持てる力全てで、あなた様をお支え致しますわ。
深海の都に、今こそ光あれ。我らの道を指し示さんことを!アルナディアの皆様。海底の都オーサルアトゥイに、ようこそいらっしゃいませ。
わたしはアンネローゼ様にお仕えしております、クレタと申します。アンネローゼ様よりあなたがたへ、心からのおもてなしでございます。
ごゆっくりお寛ぎくださいね。おお…!こいつァ見たことねェ料理の山だぜ!!ガハハハハハ!!!
もーっ!ノワールちゃんったら落ち着きなよー!
…あ、アレおいしそーっ♪モグモグモグ…!……ノクス様。我が主・アンネローゼ様の無礼をどうかお許し下さいませ。
気にする事はない。アルナディアは、お前達の味方になろうとここに来た。
理解してもらうまで、多少の辛抱は覚悟の上だ。味方………。
……ふふ、ありがとうございます。お優しいのですね。優しい?…ははっ、そう見えるってか!随分と心の清らかな人魚姫様だ。
お前は昔からアンネローゼに仕えているのか?はい。…アンネローゼ様の島が、あの男の物になる以前から…お傍におります。
わたしはアンネローゼ様に助けていただいた身です。
その恩返しにと、こころを癒す歌を唄う事が…わたしの役目。心を癒す歌…。
ええ。わたしの種族が持つ癒しの力を、歌声に乗せて届けるのです。
アンネローゼ様も大層お気に召され、いつも歌を所望してくださいました…。…ですが、近頃のアンネローゼ様は心ここにあらず、といったご様子で…。
あなた様へされたように、誰の話にも耳を傾けようとしません。古くからのご友人とのお喋りも、まったく楽しもうとせず…。
そして今では…わたしの歌も、聴いてくださらないのです。アンネローゼ様の心が失われてゆくのに、わたしたちはそれを止められない。
苦しくて、苦しくて…仕方がありません…。
何か…わたしに出来ることは、無いのでしょうか…?……そうか……。
